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札幌地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決 1963年1月14日

原告 相馬商事株式会社

被告 国・北海道知事 外一六名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人の求めた裁判

一、被告北海道知事が原告に対し、別紙第一目録記載の土地に対する原告の二分の一の持分について昭和二三年一二月二日を買収の時期としてした買収処分は無効であることを確認する。

二、被告国は別紙第二目録記載の土地につき、同細沼登治は別紙第三目録記載の土地につき、同佐野みや、同佐野耕三、同佐野力男は別紙第四目録記載の土地につき、同新正人は別紙第五目録記載の土地につき、同尾崎繁治は別紙第六目録記載の土地につき、同布川鶴吉は別紙第七目録記載の土地につき、同原田寿治は別紙第八目録記載の土地につき、同菅原長市は別紙第九目録記載の土地につき、同小関忠は別紙第一〇目録記載の土地につき、同記田貫次は別紙第一一目録記載の土地につき、同仙道光子、同多辻弘美、同多辻昭子、同多辻勝利および同多辻洋子は別紙第一二目録記載の土地につき、いずれも原告に対し、各二分の一の共有持分について、移転登記手続をせよ。

三、被告国との間で、原告が、別紙第一三目録記載の土地について、二分の一の共有持分を有することを確認する。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決

第二、原告訴訟代理人の述べた請求原因

一、(一)別紙第一目録記載の土地(以下本件土地という)は、もと釧路郡鳥取町字鳥取五八番地、原野三六一町七反四畝一七歩であつたが、地名変更および分筆の結果、右目録記載のような土地になつている。

(二) 本件土地は昭和一七年五月ごろから、訴外株式会社相馬商店(以下相馬商店という)と、訴外中田堅太郎との共有であり、原告は昭和二五年一月二四日、訴外相馬商店を吸収合併し、同日その登記を経て、右訴外相馬商店の権利義務を承継したものである。

(三) ところが、被告北海道知事(以下被告知事という)は、本件土地を、昭和二三年一二月二日を買収期日として旧自作農創設特別措置法(以下自創法という)の規定により買収したものとして取扱つており、被告国は、昭和二五年四月七日、本件土地につき、自己のため自創法に基く昭和二三年一二月二日付買収を原因として所有権移転登記をした。

(四) そして被告国は、昭和二六年五月二一日、本件土地を分筆の上、別紙第一三目録記載の土地を除いて、その余の土地を、自創法に基き、被告新正人ほか、二六名に対し、売渡処分をなし、前同日付で同人らのため所有権保存登記をしたが、昭和三二年三月三一日、別紙第二目録記載の土地を農地法第四四条によりその所有者から未墾地として買収して被告国に所有権移転登記手続をした。そして訴外佐野長治は昭和二七年四月一日死亡し、被告佐野みや、同佐野耕三、同佐野力男が相続し、訴外記田信治は昭和三三年一月一四日死亡し、被告記田貫次が相続し、訴外多辻義信は昭和二九年六月二八日死亡し、被告仙道光子、同多辻弘美、同多辻昭子、同多辻勝利、同多辻洋子が相続しているものである。

なお、別紙第一三目録記載の土地については、従来の登記簿が閉鎖されたままで、新しい保存登記はされていない。

二、ところで被告知事が原告に対し、原告の本件土地共有持分につきなした前記買収処分は、つぎのような重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。

(一)  本件買収処分は、原告の共有持分についての買収計画の樹立がないし、また、原告宛の買収令書の作成交付がないという瑕疵がある。

(1) すなわち、本件買収処分はつぎのような経過をたどつたものである。訴外鳥取町農地委員会は昭和二三年六月三〇日、自創法に基き、本件土地について、買収の日を同年一二月二日とする牧野買収計画を樹立したのであるが、右計画において、本件土地は前記訴外中田の単独所有とされていた。そして被告知事は、前記買収計画を承認して、本件土地を牧野として買収することとし、昭和二三年一二月二日を買収の日とする訴外中田宛の買収令書を昭和二四年六月二三日付で作成し、右令書は、そのころ右訴外人に交付された。その後被告知事は本件土地が右訴外人の単独所有でないことに気付き、訴外相馬鉄兵衛宛の買収令書を昭和二四年一一月二一日付で作成し、さらに、訴外相馬哲平宛の買収令書を昭和二五年九月二七日付で作成し、原告は、昭和二六年六月一五日右令書を受領した。

(2) しかしながら本件土地が、買収計画樹立当時、訴外相馬商店と訴外中田堅太郎の共有であつたことは、前述のとおりであり、このことは登記簿なり土地台帳を調査すれば容易に知り得たにもかかわらず、訴外鳥取町農地委員会は、本件土地は右訴外中田の単独所有と誤認して買収計画を樹立した。右計画に対し、右訴外中田から異議の申立があり、右申立書には、本件土地は共有である旨の記載があつたのに右訴外委員会はこれを看過し、被告知事は、右計画を承認の上、右訴外中田宛の買収令書を作成交付したものである。そもそも、いわゆる農地買収は、国が一方的に私人の財産を買収するのであるが、一方、所有者の権利を不当に侵害することのないよう慎重な手続を定めているのであつて、買収計画が樹立されると、右計画は公告の上、縦覧に供され、所有者には異議、訴願の権利がある。しかるに本件買収においては、共有を単独所有と誤認して計画が樹立されたため、共有者の不服申立の途がとざされてしまつている。

(3) また、買収は買収令書の交付によりなされるものであるのに、原告が受領した買収令書は原告宛のものではなく、しかも被告国は前記一の(三)のとおり、相馬哲平宛の買収令書の作成、交付がなされる前に、本件土地の買収手続が完了したものとして所有権移転登記ならびに売渡処分をなしているのであるから、ひつきよう、原告の共有持分に対する買収処分は買収令書の交付により行なわれていないことに帰する。

右のような瑕疵は、原告の共有持分についての本件買収処分を無効ならしめる重大かつ明白な瑕疵である。

(二)  本件買収処分は、牧野でない土地を牧野として買収した瑕疵がある。

すなわち、昭和六年二月訴外相馬商店が本件土地の共有者となつてから、右訴外相馬商店も原告も、ともに、本件土地を、牧野として、自ら使用したことはなく、他人に賃貸したこともない。昭和一七年六月から本件土地の共有者となつた訴外中田堅太郎についても同様である。そうして、本件土地の昭和三四、五年ころの状況は、地下水位が零メートル以下の地積は約六〇町歩であり、そのうち有毒草の繁茂していない放牧可能地域は約四五町歩で全体に対する比率は一割四分に過ぎず、これとても昭和三一年ごろ掘られた三本の排水溝によつてその附近の地下水位が下つたからで、買収の日である昭和二三年一二月二日当時は、地下水位が零メートル以下の土地は約三五町歩のみであつた。

以上のような本件土地の歴史および形状からいつて、本件土地は牧野ではなく、湿地もしくは荒廃地というべきものであつて、本件土地の一部に、たまたま、附近に放牧されている牛馬が立入つたり、近所のものが採草したことがあつたからといつて牧野となるものではない。

なお、被告国は本件土地を、未登記の部分を除いて、昭和二五年九月二〇日、被告新正人ほかに、農地として売渡し、その後、昭和三二年三月三日には、右売渡にかかる土地の大部分を、同人らから、未墾地として買収しているのであつて、右は、被告国みずから、本件土地が牧野でないことを認めているわけである。

かように、本件土地は牧野でないのに牧野として買収されたという瑕疵があり、右瑕疵は、本件買収処分を無効ならしめる重大かつ明白な瑕疵である。

(三)  右(一)および(二)記載の瑕疵がそれぞれ単独では本件買収処分を無効ならしめないとしても右(一)および(二)の瑕疵があわせて存在するから、本件買収処分は無効である。

三、よつて、原告の本件土地共有持分に対する買収処分は無効であり、したがつて、原告は依然として本件土地につき二分の一の共有持分権を有している。そこで、右買収処分を有効であるとする被告国および同北海道知事との間で、右買収処分の無効確認を、被告国ほか一六名に対しては各土地の持分について移転登記手続を、別紙第一三目録記載の土地につき、原告が持分を有することを認めない被告国との間でその確認を求めるため、本訴に及んだものである。

第三、被告国および北海道知事各指定代理人が求めた裁判

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第四、被告国および同知事各指定代理人の述べた請求原因に対する答弁および主張

一、原告が請求原因で主張した一および二の(一)の(1)の事実はいずれも認めるが、本件買収処分に原告主張のような重大かつ明白な瑕疵が存し、右買収処分は無効であるとの点は争う。

(一)  訴外鳥取町農地委員会が樹立した前記買収計画において、本件土地が訴外中田堅太郎の単独所有とされていたことは、原告主張のとおりであるが、右買収計画は本件土地全部について樹立されており、たまたま共有者の一名の表示を欠いているにすぎず、当該土地そのものについて買収計画が樹立されていない場合とは全く趣を異にする。元来買収計画はそれ自体権利変動を生ずる終局的な処分ではなく、自作農創設事業の円滑な運営をはかるため、終局処分である買収が適正公平に行われるよう、予め計画を立てる準備行為であるにすぎないから、買収が結果的に適正公平に行われた場合においては買収計画に瑕疵があつたからといつて、必ずしも買収自体に影響を及ぼさせる必要はない。ところで本件買収処分についてみると(イ)買収計画は本件土地全部について樹立されていることは前述のとおりであり、(ロ)右訴外中田に対する関係では手続が適法に遂行され、異議の申立等の不服申立に対する十分な審議があつたこと(ハ)訴外相馬商店は函館市に本店を有する不在地主であつたから、当然不在地主の牧野として買収される運命にあつたこと、(ニ)さらに後述のとおり買収令書を株式会社相馬商店に発行交付し、対価も原告において受領していることからして、本件買収は結果として適正公平に行われているのであるから、その準備的行為である買収計画についての瑕疵の故に、買収処分までも無効とする合理的理由に乏しいといわなければならない。

(二)  つぎに株式会社相馬商店に対する買収は、同商店の代理人である一条商店こと一条雪居に対し、相馬鉄兵衛名義の買収令書を昭和二四年一一月二一日に交付することによりなされている。もつとも、本件土地の共有者は登記簿上、株式会社相馬商店であつて相馬鉄兵衛ではなかつたので、原告の要求で、原告の了解を得て、右令書の一部を訂正するため、昭和二五年九月二七日付相馬哲平宛買収令書が作成され、右令書は、原告が、前記訴外相馬商店の権利を承継したものとして、原告会社代表取締役相馬哲平の名義で受領し、原告において本件買収処分を承認の上、昭和二六年七月二四日、買収対価金三九、〇三八円を受領しているのである。すなわち前記買収令書に表示された鉄兵衛および哲平は、訴外相馬商店および原告の、代表取締役相馬哲平の趣旨であつて、表示に僅少の誤記があるにすぎず原告も右令書を同じ趣旨で受領しているのである。そうして本件土地の所在、持分の表示等からすると右買収が原告に対しなされた処分であることが明らかであるから、他の同名人と誤認されるおそれもない。したがつて前記のような誤記が買収処分を無効ならしめることはない。

(三)  本件土地は牧野である。本件土地は大正中期以来採草放牧地であつて、訴外吉田林蔵が昭和一一年ごろまで同所で吉田牧場を経営していたし、その後も近隣のものが自由に採草放牧していたものである。

なお、原告は被告国が、昭和三二年二月に本件土地を未墾地買収したことからしても本件土地が牧野でないことが明らかであると主張しているけれども、牧野として使用されていた土地が後日牧野として使用されなくなつた場合に、未墾地買収の対象となることはあり得るのであるから、右の事実をもつて昭和二三年の買収計画樹立当時本件土地が牧野でなかつたということにはならない。なお本件買収当時本件土地を牧野と認定したことに、たとえ瑕疵があつたとしても、前述のような歴史的事実からして、右認定には明白重大な瑕疵があるとは到底認められない。

(四)  以上のとおり本件買収処分には瑕疵が認められるとしても、その瑕疵は右処分を無効ならしめる程重大明白なものとはいえず、このような瑕疵が累積しても無効原因となるものではない。以上いずれの点からいつても原告の本訴請求は失当である。

第五、証拠<省略>

理由

一、本件土地がもと、釧路郡鳥取町字鳥取五八番地、原野三六一町七反四畝一七歩であつたこと、本件土地について地名変更および分筆がなされた結果、別紙第一目録記載のような土地になつていること、本件土地がもと訴外株式会社相馬商店と訴外中田堅太郎の共有であつたが、原告がその主張の日に訴外相馬商店を吸収合併し、同日その登記をしたこと、被告知事が本件土地を自創法の規定により買収したものとして取扱つており、被告国が本件土地につき買収手続が完了したものとして、同被告のため買収を原因とする所有権移転登記手続をしたこと、同被告が右土地を分筆の上、そのうち別紙第二ないし第一二目録記載の土地を被告新正人ほか二六名に対し売渡処分をなし、同人らのため、それぞれ所有権保存登記をしたが、その後右第二目録記載の土地を、農地法第四四条により同人らから、未墾地として買収し被告国に所有権移転登記手続をしたこと、訴外佐野長治、同記田信治、同多辻義信が死亡し、その相続関係が原告主張のとおりであること、以上の事実はいずれも原告と、被告国および同知事の間では、当事者間に争いがなく、原告と、被告細沼登治ほか一五名の被告との間では争がないものとみなす。

二、そこで、本件買収処分に重大かつ明白な瑕疵があつて、右買収処分が無効であるとの原告の主張について判断する。

(一)(1)  訴外鳥取町農地委員会が、昭和二三年六月三〇日、本件土地につき、買収の日を同年一二月二日とする牧野買収計画を樹立したこと、右計画においては、本件土地が訴外中田堅太郎の単独所有とされていたこと、被告知事は右買収計画を承認し、本件土地を牧野として買収すべく、訴外中田宛の買収令書を同二四年六月二三日付で作成し、右令書はそのころ右訴外人に交付されたこと、その後本件土地が共有地であることに気付いた被告知事は、相馬鉄兵衛宛の買収令書を作成し、さらに相馬哲平宛の買収令書を同二五年九月二七日付で作成し、右令書は原告において受領していることは、いずれも原告と被告国および同知事との間で争いがなく、原告と被告細沼登治ほか一五名の間では争がないものとみなす。

(2)  そして成立に争のない甲第一、第二号証および乙第一号証、証人塚本勇吉の第一、二回各証言により成立の認められる乙第二号証、成立に争いのない乙第三号証の一、同第五号証、および証人石田文英の証言(第二回)により成立の認められる乙第六号証、ならびに証人石田文英の各証言(第一、二回)および同塚本勇吉の各証言(第一、二回)によればつぎの事実を認めることができる。前記相馬鉄兵衛宛の昭和二四年一一月一八日付買収令書は、同月二一日訴外相馬商店の釧路市における不動産等の管理人であつた訴外一条雪居に交付され、同人から買収令書の受領証および対価受領に関する件の委任状が被告知事に返送されたので、その後の手続が進められ、昭和二五年六月ごろ、北海道拓殖銀行函館支店から原告に対し、本件土地買収の対価を受領するよう通知があつた。また、そのころ、前記相馬鉄兵衛宛の買収令書が原告方へも送付されて来たことがあつた。ところが、当時原告の農林係であつた訴外塚本勇吉は、右令書がすでに訴外一条雪居によつて受領されていたことは知らなかつたし、また買収の日がずつとさかのぼつた日である昭和二三年一二月二日となつていることと、右令書および前記拓銀支店からの通知の宛名が相馬鉄兵衛となつていることに不審を抱き、係担当官である北海道庁の農地課経理係の訴外山村透に調査を依頼したところ、右訴外人から前記令書が訴外一条雪居にすでに交付されていたこと、および本件買収処分が正当なものであることの説明を受けて納得した。そうして、右訴外塚本は会社業務上迅速な事務処理の必要から、買収対価の早期支払および納付済税金の還付取計方を前記訴外山村に要請するとともに、宛名の相馬鉄兵衛というのは相馬哲平の誤りであるからこれを哲平に改めるよう要求した。そこで被告知事は右買収令書の宛名の記載を訂正する意味で、さらに相馬哲平宛の買収令書を作成した。しかして、右令書を受領したのは原告であつたが、原告は、昭和二六年六月一五日付でその代表取締役相馬哲平名義の受領書を提出し、のち買収対価として金三九、〇三八円を受領した。本件係争買収の経過は以上のとおりであつたものと認めることができる。

(3)  右事実によると、本件買収計画においては、訴外中田堅太郎を単独所有者とし、共有者である株式会社相馬商店を看過した瑕疵がある。しかしながら、買収計画の樹立は、土地を対象として行われるもので、土地の所有者を対象として行われるものではないから、本件土地全部について買収計画は樹立されているのであつて、土地そのものについて買収計画を樹立していない場合と異る。そうして、買収計画の樹立は適正妥当な買収処分を行うための準備的なものであつて、直接権利変動を生ずる終局的な行政処分ではない。そうだとすると、土地所有者の認定を誤ることによつて、買収要件を具備しない土地を、具備すると誤認したというような事情が附加されるならばともかく、そのようなことのないかぎり、土地所有者の認定を誤つたということだけでは、右計画に基く買収処分を無効ならしめるほど重大な瑕疵があるということはできないものというべきである。さらに、前記二通の買収令書はいずれも相馬鉄兵衛あるいは相馬哲平宛になつており、株式会社相馬商店あるいは原告宛の買収令書としては瑕疵あるものといわなければならない。しかしながら、前記認定の事実によると、被告知事においても、また原告においても、本件買収処分が訴外株式会社相馬商店あるいは原告に対しなされたものであること、換言すれば、前記相馬鉄兵衛あるいは相馬哲平の記載が、訴外株式会社相馬商店あるいは原告を意味することを疑つていなかつたものと認められる。すなわち、前記買収令書の相馬鉄兵衛あるいは相馬哲平という表示は、株式会社相馬商店あるいは原告の代表取締役相馬哲平の誤記と解するのが相当である。したがつて、この点において、原告主張のような重大な瑕疵ありということはできない。

(二)  つぎに、本件土地は牧野ではないとの原告の主張であるが、第一、二回の検証および鑑定人大原久友の鑑定の結果によると、本件土地は現況においても、地下水位が零メートルまたは零メートル以上のところが三〇〇町歩以上であつて、地下水位零メートル以下の地積は六〇町歩にすぎないこと、本件土地の一部にはサワキキヨウ、ヒメシダ、コウヤワラビ、スギナなどの有毒野草が生育していることを認めることができるが、だからといつて本件土地が牧野でないとはいえない。他方本件土地などを含む釧路地方では、本件土地のような低位泥炭地において、いわゆる谷地放牧が行われており、谷地放牧の長所としては、谷地坊主の発芽が早いから、冬季放牧から引続き利用できること、草生良好であるから放牧力が大きいことが挙げられること、本件土地に群生しているキタヨシ、イワノガリヤス、ヒラギシスゲなどは牛馬の飼料に適するものであることを認めることができ、現に、成立に争のない甲第一一号証の二、証人宮本重忠(一、二回)、同沼崎市三郎、同尾崎正治の各証言、および被告布川鶴吉、同原田寿治各本人尋問の結果によると、訴外吉田林蔵が、大正の中ごろから昭和一〇年ごろまでの間、附近の農家や漁民から馬をあずかり、本件土地に放牧して、その数も多い時には一〇〇頭を越えたことがあり、当時本件土地は吉田牧場と呼ばれていたこと、右訴外吉田が死亡して牧場をやめてのち、浜野芳治が本件土地で一時牧場をやり、馬を六、七〇頭放牧していたことがあること、昭和二三年ごろからは、近隣のものが、多少馬を放牧したり、牛馬の飼料にする草を刈つていたこと、中田堅太郎が昭和二三年一一月一四日付で北海道知事に提出した訴願書には、同人は本件土地を牧場および採草地目的で買受けた旨、昭和一七年から現在まで、毎年約四〇町歩の地内を所有輓馬の採草地に使用している旨、右土地を買収から除外されるならば、一段と土地改良に努力し、使役馬の粗飼料を獲得したい旨記載されていることが認められ、右各事実によると、本件土地は家畜の放牧または採草の目的に供される土地すなわち牧野であると認定できる。

(三)  そうすると、右(一)(二)から明らかなとおり、本件買収処分には、右処分を無効ならしめる重大かつ明白な瑕疵ありということはできず、しかも本件買収処分に存する前記のような瑕疵を積重ねても、それによつて右瑕疵が重大明白なものになるということもできない。

三、してみると、その余の点について判断するまでもなく、右買収処分の無効を前提とする原告の各請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用については、民事訴訟法第八九条を適用して、原告に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島一郎 西山俊彦 秋元隆男)

(別紙目録省略)

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